2012年12月7日金曜日

54 変化を生み出す3段階

54 変化を生み出す3段階

「社会的責任は、慈善事業的な発想からマーケティングの一環と捉える必要がある。社会的コーズを実現して変化を生み出すことで、人々の精神を揺さぶるマーケティングの推進が可能である」

社会的責任マーケティングで最も危険なのが、顧客が「製品とコーズとの間に疑問を持ち、その企業が利益を追求している」との疑惑持たれた場合。
だからこそ、社会的責任マーケティングを推進する場合、コーズは慎重に選ぶ必要がある。コーズが企業のあり方と密接に関係していなければならないからである。
そのために企業の存在理由を深く考察しよう。
「企業の存在理由とは、企業のミッションである」
つまり企業は社会やコミュニティ、個人がもつニーズを満たすべく存在している。ただし、1企業があらゆるニーズに応えるのはできない。そこで特定のニーズに焦点を絞るべきである。
この特定のニーズに対応するということが企業のミッションと同値である。企業のミッションがあるからこそ企業が存在する。それが企業の存在理由となる。

ここでマーケティング3.0における3iモデルを思い出したい(→11)
3iでは、ブランド・アイデンティティ、ブランド・イメージに加え、ブランド・インテグリティを重視した。そもそもマーケティングは3.0ではブランド・インテグリティの達成がカギを握る。そしてその原動力が、企業のミッションを出発点とした社会的コーズを経て向かう社会的責任マーケティングに他ならない。
社会的責任マーケティングを正しく推進する事で、企業は人々の信頼を勝ち取れる。社会的コーズに従い、人々との協創を促し、文化的問題の解消を目指し、ひいては人々の精神を揺さぶるマーケティングを実現する。これらを通じてソフトパワー(→10)が手に入る。

これは企業の魅力を増大させ、人々の行動を呼び起こさせる。こうした企業としてのかつどうに賛同する人がふえれば、社会はよりよい方向に進んでいく。
コトラーはこれを「マーケティングにおける社会的課題への取り組みの3段階」と呼ぶ。
人々の行動変革を促し、社会の利得を向上させるマーケティングは、現代の新しい潮流であろう。





2012年12月6日木曜日

53 ボトム・オブ・ピラミッド

53 ボトム・オブ・ピラミッド
「SBEの対象のひとつに貧困の撲滅がある。
ミシガン大学のC・K・プラハラードは貧困層を新たな市場と捉え、ここに焦点を合わせた製品やサービスの開発を促している」
世界の富の配分は次のとおり

    購買力平価        人口

第1層 2万ドル以上      7500万人〜1億人
第2〜3層 1500〜2万ドル未満  15億〜17億5000万人

第4層  1500ドル     
第5層  1500ドル未満     4と5をあわせて40億人

第1層は年収2万ドル以上の人たち。
その一方、経済ピラミッドの底辺は、年収1500ドル以下で、その数は40億人にのぼる。

プラハラードはこの底辺にいる「1日2ドル未満で生活している40億人の人々」の事を、ボトム・オブ・ピラミッド(BOP)と呼ぶ。

企業は今後、投資力をBOPに向ける事が企業の利益に貢献するとする。

つまりBOPこそがネクスト・マーケットだとしている。 必要な情報がないだけで、お金は持っている。ここに適切な製品やサービスを提供すれば、貧困撲滅という社会的責任マーケティングを実現でき、さらに企業利益にも貢献できるのである。

BOPで受け入れられる製品を作れば、その後信頼を得るはず。そこからピラミッドを逆流することも可能であろう。そうすれば企業努力を怠り、低付加価値で高額な商品は駆逐されるはず。

日本市場が中国製品の大量進出でうけたインパクトに通じるものがある。

いずれにしても、BOPへの進出のいかんに関わらず、飛躍的にコスト・パフォーマンスが向上した製品の出現を前提にした企業努力をすべきという事である。

2012年12月5日水曜日

52 ソーシャル・ビジネス・エンタープライズ

52 ソーシャル・ビジネス・エンタープライズ

「社会的責任マーケティングの6番目に位置する社会的責任に基づく事業の実践の典型」
→51で触れた、ソーシャル・ビジネス・エンタープライズ(SBE)は、「社会的目的が企業の最も重要な事業目的とされていて、その企業の意思決定に明確に反映」されており、同時に利益も上げる企業を指す。

SBEで最も有名なんのが、06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスが社会的貧困の終焉を社会的コーズとして起業したグラミン銀行であろう。

バングラデシュで企業された同行は、マイクロ・クレジットという事業で貧困層を経済的に自立させると共に企業としても利益を上げている。

マイクロ・クレジットとは少額の資金を貧困層に無担保で貸し出す制度であり、このお金を元手にした貧しい人々が事業を行う。

借り手はそこからえた収益で融資の返済をしつつ、経済的な自立に道筋をつける。

グラミン銀行では、お金を貸し出す際、グループ単位での融資という手法をとった。

個人がローンを組む際には、グループ全体の同意が必要で、仲間意識が生まれることとなる。これにより返済義務の意識も高まり、個人に問題が生じた際もグループ全体で解決に向かうようになる。

この方法によってグラミン銀行は高い収益を手にしており、また貧困層が経済的に自立する事を支援している。 貧困の撲滅に限らず、様々な社会的コーズを事業目的としたSBEが誕生しており、事業を行なっているのである。


2012年12月4日火曜日

51 ソーシャル・マーケティング

51 ソーシャル・マーケティング

「公衆衛生や治安、環境、公共福祉の改善などについて行動改革を促し、社会的利得の向上を目指すもの」

公衆衛生や治安、環境、公共福祉の改善などについて行動改革を促すマーケティングで、「社会文化的変化を生み出すマーケティング」(コトラー)である。

営利企業の目的は会社の利益が最優先されるが、ソーシャル・マーケティングでは「第一の目的は個人的、もしくは社会的利得」を目指すとされる。

これが達成されると「社会的・文化的変化」が起きる。  ソーシャル・マーケティングの対象は例えば乳がんや前立腺がん、禁煙、HIVなど多岐に渡る。また大気汚染や地球温暖化、野生動物保護というようなテーマもある。
→53で論じる貧困問題の解決も、ソーシャル・マーケティングの重要なテーマである。

コトラー曰く、企業が従来行って来た寄付活動は、社会的責任マーケティングの4番目に位置するフィランソロピーとして分類されている。5番目の地域ボランティアは従業員のボランティアへの参加を促して行うマーケティング手法である。

社会的責任マーケティングの6番めの社会的責任に基づく事業の実践は、ソーシャル・マーケティングの発展型である。企業が実践する事業そのものが、社会的コーズに従ったものとなる。

その究極の形が、社会的コーズにしたがって設立された会社であろう。 このような形態の企業をソーシャル・ビジネス・エンタープライズ(→52)と呼び、そうした企業を立ち上げる人のことを社会起業家と呼ぶ。

2012年12月3日月曜日

50 コーズ・リレーテッド・マーケティング

50 コーズ・リレーテッド・マーケティング

「コーズ・プロモーションは、社会的コーズに対する人々の関心を高めることが目的。コーズ・リレーテッド・マーケティングは特定の製品のセールスとコーズとを結びつけたマーケティング」

コーズ・プロモーションは、自らの社会的コーズに対して人々の注意を向けさせるための行動。

コーズ・リレーテッド・マーケティングは、特定の商品の売上のうちの何%かを自らの社会的コーズの為に投入する活動。代表例は1980年代初頭の自由の女神像修復キャンペーンで、アメックスが行ったもの。カード1回の利用ごとに1ペニー、新規のカード発行ごとに1ドルを寄付するというもので、同社からは170万ドルが支払われた。ちなみに利用件数は30%アップ。新規カード発行数は15%アップした。

コーズ・リレーテッド・マーケティングの最近の事例ではU2のボノらが主体となったレッド・キャンペーン・プロジェクト。賛同企業がレッドのラベルを貼り、それに対してライセンス料を取るというもの。収入は世界基金に提供されて、貧困者支援に回された。